人工透析=腎臓の機能を補う治療法

なぜ透析が必要になるのか

腎臓は、血液内の老廃物をろ過し、きれいな状態にする役割を担っています。また、体内の水分量やミネラルの濃度を調節し、体内を弱アルカリに保つという重要な働きもしています。

腎臓のはたらき腎臓のはたらき

腎臓の機能が衰え、腎臓の働きが不十分になった状態を「腎不全」と言います。この状態になった場合、腎臓の働きを補う人工透析が必要となります。

腎臓の機能腎臓の機能

腎臓機能が低下した際に出る症状

腎臓がうまく働いていないと、
・蛋白尿がでる(尿が泡立つ)
・血尿がでる(赤っぽい尿や茶色の尿が出る)
・むくみがでる(まぶたや手の指、足の甲・すねなどに出やすい)
・高血圧になる
・貧血になる
・骨が弱くなる
といった症状が現れます。

腎機能が低下した際の症状腎機能が低下した際の症状

腎臓は肝臓とともに「沈黙の臓器」と言われています。急性腎不全の場合は、乏尿(尿の出が悪くなる)や無尿(全く尿が出なくなる)という症状が出るため早期発見が可能ですが、慢性腎不全の場合は自覚症状がほぼありません。そのうえ、慢性腎臓病(CKD)で機能が衰えてしまった腎臓はもとに戻りません。
定期検診などで尿検査異常を指摘されたら、きちんと調べてみる必要があります。

腎不全保存期

慢性腎臓病(CKD)になり、体内に尿毒素や余分な水分が蓄積して尿毒症状が出ているものの、透析を受けなくてもよい状態を腎不全保存期といいます。具体的には腎機能のGFR(糸球体濾過量)が60mL/分/1.73m2 未満の腎機能低下もしくは、腎障害が3か月以上続いている状態のことを指します。現代の成人日本人の13%が慢性腎臓病(CKD)と言われています。

慢性腎臓病(CKD)の代表的な要因とされているのが生活習慣病(糖尿病や高血圧など)と慢性腎炎です。さらに、メタボリックシンドロームとの関連も深いと考えられており、誰もがかかる可能性がある病気であることがいえます。

腎臓病の予防としては、
・過労や睡眠不足などによるストレスを減らす
・食生活を見直し塩分や糖、肉類などのたんぱく質を摂りすぎない
・喫煙や飲酒、運動不足といった生活の悪習慣を改善する
といった、生活習慣の改善があげられます。

腎不全保存期腎不全保存期に気をつけること

透析治療を始めるタイミング

腎不全になると尿毒症の症状(倦怠感や食欲低下、悪心、嘔吐、頭痛など)に見舞われます。また重症の場合は全身がけいれんするなど危険な症状が現れることもあります。
透析治療を開始するタイミングは、様々なデータをもとに総合的に決められますが、腎臓機能が通常の10%以下まで低下した腎不全の状態になると人工透析が必要です。

透析を始めるタイミング尿毒症の症状がひどくなったら透析が必要です

透析治療の種類

血液透析

血液透析は血管に刺した針を通して血液をいったん体外に出し、出した血液をダイアライザーという透析器に通します。ダイアライザーを使用し血液の中にある老廃物や余分な水分を除去し、血液をきれいにして体内に戻す透析治療のことをいいます。

血液透析血液透析の仕組み

腹膜透析

腹膜透析は自身の腹膜を透析膜として用いる透析治療のことです。
お腹の中の臓器を支えている腹膜の中に透析液を注入し、透析液ごと排出します。手動で透析液の注入・排出を行う方法をCAPD(連続携行式腹膜透析)、自動的に透析液の注入・排出を行う方法をAPD(自動腹膜透析)といいます。

腹膜透析腹膜透析の仕組み

気をつけるべき合併症

不均衡症候群

透析中〜透析終了後12時間以内に起きる腹痛や吐き気、嘔吐、全身脱力感など。透析導入期によくみられる症状です。透析に慣れていない、あるいは透析条件を変更した時にもみられることがあります。
透析を行うと、体内の血液中に含まれる老廃物(尿毒素)や水分は取り除かれますが、脳の中の老廃物(尿毒素)は除去されにくく、体と脳で濃度差が生じます。そうすると、脳の中の老廃物(尿毒素)を薄めようと、脳は水分を吸収します。その結果、一時的に脳がむくみ、脳の内圧が高くなり症状を引き起こしてしまいます。体が透析に慣れると、症状が出にくくなります。

不均衡症候群不均衡症候群の症状

血圧低下(低血圧)

透析者の多くが抱えている合併症で、吐き気や嘔吐、頭痛、冷や汗、立ちくらみ、疲れやすい、あくび、動悸、息切れ、食欲不振、倦怠感、腹痛・便意を感じるといった自覚症状があります。無症状の場合もあり、症状のあらわれには個人差があります。

血圧低下(低血圧)多くの透析者が血圧低下(低血圧)を抱えています

腎性貧血

疲れやすくなる、手足のだるさ、階段の上り下りのときの息切れや動悸といった、日常生活に支障をきたす症状があらわれます。腎臓の機能が低下したり腎不全になると、造血刺激ホルモンであるエリスロポエチンが不足して、骨髄での赤血球(血液)の生産が減り、貧血状態になります。さらに老廃物(尿毒素)が十分に除去されないことで、赤血球の寿命が短くなることも原因のひとつです。
予防としては、十分な透析をする、しっかりと栄養をとる、そして適度に運動することです。
症状によっては、ヒトエリスロポエチン型製剤などを注射します。また、体内の鉄が不足し、ヘモグロビンの産生が十分にできないと、鉄欠乏症貧血になります。その際は鉄剤を使用し、鉄を補充する場合があります。

腎性貧血腎性貧血の症状

高血圧

頭痛や吐き気、夜ぐっすり眠れないなどの症状が現れます。一般的に、主な原因は水分や塩分の摂りすぎと考えられていますが、長時間透析情報館では老廃物(尿毒素)が大きな要因であると考え、長時間透析(8時間)を推奨しています。
高血圧は動脈硬化、心臓病、脳卒中、視力障害(眼底出血)といった症状の原因にもなりますので、とくに気をつけるべき合併症のひとつです。

高血圧頭痛や吐き気、夜にぐっすり眠れないという症状が出ます

かゆみ

かゆみの症状に悩む透析者は多いです。かゆみの原因は、リンやカルシウム、副甲状腺ホルモン、老廃物(尿毒素)などが関与していると考えられています。
かゆみのあらわれ方は個人差がありますが、症状がひどい方には抗ヒスタミン薬の塗布や服用、ステロイド外用薬、保湿剤、抗アレルギー薬の注射などを使用して、かゆみを抑える治療をおすすめします。また、原因である老廃物(尿毒素)などは透析時間を長くすることでより多く除去できるため、長時間透析を行うことも解決策のひとつです。

かゆみかゆみの原因

筋けいれん

足の筋肉に起こることが多く、透析中に足をつるなどの症状が出ます。
透析を導入して間もない頃に起きることが多いです。また、水分の除去量が多い時や血液中の電解質のバランスが崩れた際に起こりやすい症状です。

筋けいれん透析中に足をつるといった症状が出ます

感染症

一般的な透析者は、免疫力が低下していることが多いので感染症にかかりやすく、重症化のリスクも高いです。シャント部の感染や尿路感染、風邪をこじらせて起こる肺炎、結核、インフルエンザ、肝炎には注意が必要です。
日頃より栄養の取れたバランスの良い食事や適度な運動、しっかりと睡眠をとるといったことを心がけましょう。

感染症免疫が低下している場合、重症化しやすいので注意が必要です

心不全・肺水腫

水分の過剰摂取や透析時の除水不足などにより、体液が過剰となり、心臓や肺に負担がかかることで発症します。肺に水が溜まってしまうと、せきやたんが出たり、息切れや夜間呼吸困難などの症状があらわれます。

心不全・肺水腫心臓や肺に負担がかかり発症します

骨や関節の異常

体内にリンが蓄積して高リン血症になると、二次性副甲状腺機能亢進症が発症し、もろくて骨折しやすい骨になってしまいます。要因は体内にリンが蓄積することで腸におけるカルシウムの吸収が悪くなり血液中のカルシウム濃度が低下し、副甲状腺でつくられる副甲状腺ホルモンが大量に分泌され、骨を溶かして血液中のカルシウム濃度をあげようと働くからです。
また、透析期間が長くなるとβ2-ミクログロブリンというたんぱく質が少しずつ体内に蓄積し、アミロイドという線維になって骨や関節、内臓に沈着して、アミロイド症や手根管症候群、弾発指(バネ指)が発症する場合もあります。

骨や関節の異常二次性副甲状腺機能亢進症のイメージ

末梢動脈疾患(PAD)

足の血管の動脈硬化が進行し、血管が細くなったり、詰まるなどして十分な血流が保てなくなる病気です。軽症時は足先が冷たくなったり、しびれが起きたりする程度ですが、進行すると痛みで歩行が困難になります。重症になると安静時でも痛むようになり、足先の皮膚がただれたり(潰瘍)、くさってしまい(壊疽)、場合によっては足を切断することもあります。

末梢動脈疾患(PAD)末梢動脈疾患(PAD)のイメージ

高カリウム血症

手足のしびれや口のしびれ、脱力感、知覚異常、味覚異常・違和感といった症状があらわれます。血液中のカリウム値が高くなると、最悪の場合、脈が乱れて心臓が停止することもあり大変危険です。

高カリウム血症高カリウム血症の症状

透析とは、大切な「治療法」であり、
透析者が付き合い続けなければならない「生活の一部」でもあります。
「透析を選ぶ」ことは「生き方を選ぶ」ことに繋がります。
長時間透析情報館は、透析者ひとりひとりの人生に最適な選択肢が選ばれることを願っています。